「育てる家の物語」プロジェクトは、その後、料理、菜園、薪ストーブなどに詳しい人の話をうかがいながら、より細やかな計画の加筆修正をおこない、八木さんご家族も満足のいく内容になった。後は、この計画が工事予算内におさまっているかが大きな山となってくる。
そこで、八木さんの知り合いでもある辻野建設工業さんに、概算見積もりを依頼。堀尾さんより現場監督の松田さんへ見積もり図面が渡され、建物の内容が説明された。また松田さんの方からは、施工者の目から見たアドバイスもあり、話は進んでいった。 堀尾:早速ですが、松田さんよろしくお願いします。これが、図面一式になります。建築的な内容はほぼまとまっています。 堀尾:基本はオール電化ですが、補助暖房として薪ストーブがあります。 松田:設備関係の内容は、この概要資料を見れば良いのですね。 堀尾:そうです。不明な点は、追って質疑いただければと思います。 松田:了解しました。 堀尾:それで、今回特に辻野建設さんにご相談したいところは、屋上菜園なんです。木造のこのようなケースは私もはじめてですし、防水工法の選択については十分な検討が必要と考えています。具体的には、軟質のFRP防水がベストかと考えていますが、コストのこともあるので迷っているところです。 FRPとは、ガラス繊維強化プラスチックス(Fiber Glass Reinforced Plastics)の略で、プラスチックの材料の中でも耐衝撃性が最も大きい材料。軟質FRP防水は、軟質ポリエステル樹脂とガラスマットによってFRP防水層を形成する防水・防食工法。屋上防水、プール、床、その他幅広い用途に使用されている。 松田:私もバルコニーと同じと考えれば、軟質FRP防水かと思っていました。木造はどうしても動きがあるので、その揺れに追随するのには、ガラス繊維にポリエステル樹脂を組み合わせるこの工法ですよね。 堀尾:ただ、コスト的には結構高いものになるのではないでしょうか? 松田:コストから考えると、塩化ビニルのシート防水やアスファルト防水のトーチ工法というのもありますが、菜園の場合は客土の下に採石を敷くことになるので、石に対する強度の点が心配ではあります。 堀尾:防水層を傷つけないようにしないといけませんね。どういう採石を入れますか? 松田:0~20、30㎜の丸石で考えています。 堀尾:それと、注意していてもスコップの先があたることも想定しなければなりません。 松田:確かに、それはありえますね。ちょっと、考えてみます。 八木:野菜の根が防水を突き破ることはありませんか? 堀尾:FRP防水は問題ないのですが、他の防水はありえるかな…。 松田:他の防水でも野菜の根であれば大丈夫だと思います。 堀尾:本当は、この屋上菜園の部分だけ実際につくって、防水して、野菜を植えて実験できると良いですけどもね。 松田:実物大モックアップをつくりますか(笑)。 堀尾:えっ、やっていただけますか。 松田:実際にやるなら、屋上菜園を二つに分けて、軟質FRP防水とアスファルト防水の2種類の耐久性を比較検討したいですね。 堀尾:それは、良いと思います。 八木:なんだか、とても専門的な話で部分的な理解かもしれませんが、実物大の菜園でそれを確かめられたら安心できます。 松田:ええ、やってみましょう。 モックアップについて 一般的には、実物とほぼ同様に似せて作られた模型のことである。建築では、出来上がる建物の外壁や屋根の一部を実際につくり、設計図だけでは分からない施工方法や仕上りの細部を確認する。 数日後、つじの蔵の横に屋上菜園のモックアップを作製する。 八木:それと堀尾さん、例の菜園のトマトの茎を絡める仕掛けについて松田さんに説明してもらえますか? 堀尾:(以前の打ち合わせで描いたスケッチを松田に見せながら)この前、野菜作りに詳しい人から聞いたのですが、トマトの支柱を立てるのに何か良い工夫がないかということで、洗濯物干しの基礎を置いて、それにパイプで出来た格子を差し込みたいと考えているのですがどうでしょうか。 堀尾:スノーストッパールーフで予定してもらって、屋根の端で集水します。 松田:分かりました。ここの地盤は良いでしょうか? 堀尾:地質調査では、この現場のすぐ近くで設計した「空方の家」と同じで、支持層まで1.5mですね。 松田:基礎はピット形式ですか? 堀尾:配管スペースはピットで、それ以外は、土間コンクリートです。この図面の右側の部分です。それと、子ども部屋は下部が収納で上がベッドになっています。子ども部屋のテーブルとイスは別途ですが、キッチンカウンターは製作で見積もりしてください。 松田:了解です。階段下の食品庫の断熱は? 堀尾:断熱材ありです。 松田:ここは湿気がたまりそうなので、湿度センサー付きの3種換気にしておきます。 堀尾:お願いします。これで、だいたい概算内容の確認は良いですね。 松田:これだけわかれば、ほぼ正確な概算見積もりが出来ると思います。 堀尾:よろしくお願いします。それと、八木さんにお伝えしておきますが、今回の内容は八木さんの夢がすべて入っています。私の予想では、予算オーバーもあると考えています。でも心配しないでください。そこから、工事予算内に納めるための打ち合わせをして、最終の設計作業に入ります。 八木:そうですか。概算見積もりの金額をみて、今後どうするかを決めるんですね。 堀尾:そうです。ですので、その金額でびっくりしないように心の準備をしておいてください(笑)。 八木さんは、前半、何とか会話に加わっていたが、後半はぽんぽんと交わされる設計者と現場管理者のやりとりをじっと脇で聞いている傍観者だった。自分は建築関係の仕事なので何となく会話の意味はわかるけど、奥さんはわからないだろうな…と思いつつも、専門家同士のやり取りに安心感を覚えながら聞き入っていた。次回はいよいよ、概算見積もりが提示される。期待と不安の中でその日を待つ八木さんであった。
by sodateru-ie
| 2011-01-01 08:00
| 9話 概算見積もり
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